本の大学時代、ボブ・ディランに熱中していた。このことは「エルヴィスからビートルズ、そしてボブ・ディラン」で詳しく書いた。ボブが何を歌っているのか知りたくて、歌詞をノートに書き写し、わからない単語はすべて調べて書き出したりしたが、いっこうに理解できなかった。

ハワイへ語学留学

大学卒業後、英語を習得するためアメリカに留学する決心をした。ボブの歌を英語のままダイレクトに聞き取って理解できるようになりたいというのが第一の動機だった。留学先は、か細いながらもツテのあるハワイに決まった。23歳で新しい人生が始まった。

ハワイに来てすぐの私は、英語の会話は片言、読み書きは日本人の平均レベルなよりはややできるくらいだった。英字新聞はほとんど読めなかったし、テレビや映画はさっぱり聞き取れなかった。まずは、ハワイ大学の英語プログラムに約1年通った。

会話(話すこと・聞くこと)

会話に関しては、ハワイに来て3ヶ月ほどたったころ突然、周りが驚くほど急激に伸びたあと、緩やかに伸びていった。渡米から16年経った今は生活に不自由しないくらい話せるし聞きとれるが、23歳というのは第二言語を母国語レベルで習得するには遅すぎるらしく、残念ながら発音はマスターできなかった。私の英語は、あくまでも英語圏外の外国人がしゃべる英語である。10代でアメリカに来た日本人の中にはほとんどバイリンガルのように流暢な英語を話すことができる人もいて、羨ましく思う。

英語は、言語としての構成や、話すときの舌の運動の具合が、日本語とはあまりにも異なる。すでに成熟した大人の脳にとって、英語をインプットしてくのは大変な作業だ。英語を第二言語として習得するには、子供のときに習得するのがもっとも近道だと思う。もし、大人になってから英会話を習得したくなった場合、練習や勉強よりも、とにかく常に英語を話す“必要”がある環境に身を置くことが肝心だと思う。

私の妹は、アメリカ人と結婚してニューヨークで暮らしている。妹のアメリカ在住歴は私より数年長いが、アカデミックな英語の読み書きの力はむしろ私の方が勝っている。彼女が学生のときの課題のエッセイを私が添削してあげていたくらいだ。しかし、会話は、私は彼女の足元にも及ばない。妹は、夫やその両親と長い時間を過ごし、ときには喧嘩もし、将来の大事な話もたくさんしてきただろう。英語を話してきた経験値と会話の密度が、私とはまるで違う。妹は、彼女の人生と家庭のために英語を話す“必要”があったのだ。

書くこと

書くことは、語学学校時代の後半に通ったハワイ大学の「HELP」というプログラムの「アカデミックライティング」という授業がずいぶん役に立った。アメリカの大学入学を目指す留学生が、英語での学術論文の書き方や論理の構成方法を学ぶクラスだ。この頃は、ハワイでもう一度大学に入ってグラフィックデザインを勉強することを決めていたので、意欲的に学習した。

読むこと

最も苦労したのは、読むことだった。語学学校では、さまざまな記事や論文を無数に読まされた。読むことの積み重ねによってボキャブラリーと表現パターンはゆるやかに習得はしていくのだが、いかんせんトピックに興味がないため、なかなか読む気にならないし、内容が頭に入ってこなかった。当時読まされたもので今でも覚えているものは、ほとんどない。

語学プログラムを修了し、ハワイ大学のコミュニティカレッジでグラフィックデザインを専攻してからは、教科書の内容も課題の読み物もすべてアートやデザインという、私が直接興味があることなので、これまでよりは意欲的に読むことができた。しかし、この頃はもう私にとって英語の習得が第一の目的ではない。もし、同じ情報が日本語でも書かれてあるならどうだろう。母国語で読む方が気が楽だし、効率的かつより深く理解できるに決まっている。デザインは、日本語で書かれた書籍やウェブサイトもずいぶん頼りにしながら勉強した。

そんな私が飛躍的に英語を読めるようになったのは、ハワイの野鳥について深い興味を抱くようになってからである。ハワイでの野鳥観察が私の一番の趣味であることは、「ハワイの野鳥との出会い」で詳しく書いた。

ハワイの野鳥について詳しく書かれている本はすべて英語なので、野鳥のことをもっと知りたければ英語を読むしかない。そこには私が知りたい情報が詰まっている。語学学校の課題でさほど興味がない記事を“読まされる”のとは、内容が頭に入ってくる度合いがまったく違う。わからない単語が出てくると、その意味を「知りたい!」という思いがとても強いし、そうして知った単語は確実に自分のものになっていく。

さきに、英語を話す必要がある環境に身を置くことが英会話上達の肝だと書いたが、読むことについても同じことが言えると思う。私にとって、ハワイの野鳥について知りたいと思う欲求を満たすためには、英語の本を読む“必要”があったから、厭うことなくハワイの野鳥関連の本を読み漁った。結果として、ハワイの野鳥について調べれば調べるほど、英語の読解力が上がっていた。野鳥に興味を持ったことで思わぬ副産物を得た。

英語は—あくまでも言語の習得なので他の学問とは多少意義が異なるが—結果的には私がもっとも勉強した学科のひとつになったので、体験記としてまとめてみた。今ではボブ・ディランの歌も聞き取れる。当初の目的はひとまず達成できたといえる。

﨑津 鮠太郎